最低賃金について―現状と課題の考察

PowerPoint

執筆日:2025年9月10日

はじめに

厚生労働省によると、2025年度の地域別最低賃金の全国平均は1,121円となり、前年度から66円という過去最大の引き上げとなりました。

今回初めて、全ての都道府県で最低賃金が1,000円台に到達しました。

引き上げ時期は10月1日から2026年3月31日にかけて順次発効される予定です。

私が住む群馬県も、昨年まで関東圏で唯一900円台でしたが、今年ついに1,000円を超えます。

朝のラジオで改定時期が都道府県によって統一されていないことを知り、改めてこの問題について考えてみます。

群馬県の最低賃金の動向

8月12日に調べた情報によると、2025年10月から適用される群馬県の最低賃金は1,048円になる見込みです。

これは現在の985円から63円の引き上げになります。

中央最低賃金審議会が8月4日に公表した改定目安では、群馬県を含む多くの都道府県で63円の引き上げが提示されています。

全国平均の最低賃金は2025年度で1,072円とされており、補助金ポータルによると2026年には1,163円になると予測されています。

山本太郎氏の提案とその後の展開

6年前、「れいわ新選組」の山本太郎参院議員が最低賃金を全国一律1,500円に引き上げるべきだと主張した際、私は「まるで夢物語」だと感じていました。

確かに生活に十分な収入は得られるだろうが、企業からの反発も大きく、実現は不可能だろうと考えていました。

当時の提案内容(2019年6月)

山本氏は大分市内での街頭記者会見で、政府の「全国平均1,000円」という目標を批判し、「1,000円で一年働いてもワーキングプアから抜け出すことはできない」と主張していました。

時給1,500円なら月収約24万円になるとし、その財源は所得税の累進制強化や法人税の優遇措置撤廃、新規国債発行で賄うという考えを示しました。

政府の新たな目標設定

しかし2025年5月、政府は「第21回新しい資本主義実現会議」で、2030年代半ばまでに最低賃金を1,500円に引き上げる目標を掲げました。

かつて「無謀」だと思った数字が、今や政府の公式目標となったのです。

世界の最低賃金との比較

アメリカ

  • 連邦最低賃金:時給7.25ドル(約1,088円、1ドル150円換算)
  • 2009年以降据え置きだが、多くの州や都市でより高い最低賃金を設定
  • チップ労働者は時給2.13ドルだが、雇用主が連邦最低賃金との差額を補填する義務

オーストラリア

  • 時給24.95豪ドル(約2,430円、1豪ドル97.38円換算)
  • 週38時間で948豪ドル(約9万2,000円)

韓国

  • 2026年:時給10,320ウォン(約1,135円)

スイス

  • ジュネーブ州:時給24.32スイスフラン(約4,300円)
  • チューリッヒ州:時給23.9スイスフラン
  • 平均年収(2022年):約1,446万円(日本の458万円の約3.2倍)

現実的な課題と懸念

企業への影響

最低賃金の大幅引き上げは労働者の生活安定や消費拡大につながると期待される一方、体力のない企業から倒産していくのではないかという懸念があります。

特に地方の中小企業にとって、急激な人件費上昇は大きな負担となる可能性があります。

雇用の構造的問題

群馬県では求人数が多いとされるが、その実態には問題があります:

  • ヤマダ電機の全国求人を高崎市が一手に担当
  • 森永などの大企業に50社以上の派遣会社が「ぶら下がり」
  • 派遣会社を束ねる中間会社の存在
  • 定着率を下げるための意図的な構造

このような構造の下では、派遣労働者は不安定な立場に置かれ続けています。

企業にとって派遣は「契約終了によるリスク回避」の手段でもありますが、労働者にとっては次の仕事の保証がない状況を生み出しています。

都市部と地方の格差

地方の中小企業が人件費引き上げ競争に応じる体力には限界があります。

一方で、より高い給料を求める人材の県外流出も深刻な問題となっています。

この悪循環により、地方の労働環境はさらに厳しくなる可能性があります。

新たな働き方への模索

このような厳しい雇用環境の中で、副業という新たな稼ぎ方が注目されています。

企業の正社員として安定した収入を得ることが難しくなっている今、複数の収入源を持つことでリスクを分散するという考え方が広まっています。

しかし、私自身を含め、多くの人がこの副業という選択肢に対して二の足を踏んでいるのも現実です。

本業との両立への不安、スキルや時間の不足、そして何より「本当にうまくいくのだろうか」という不安があります。

でも、現在の労働市場を考えると、これは避けて通れない選択肢なのかもしれません。

最後に

最低賃金1,500円という目標に注目が集まる中、労働環境の根本的な問題に目を向ける必要があるのではないでしょうか。

賃金の引き上げと同時に、雇用の安定性や働く人の尊厳を守る仕組み作りが求められています。

また、従来の「一つの会社で安定して働く」という働き方だけでなく、副業や複業といった多様な働き方を社会全体で受け入れていく必要もあるでしょう。

特に地方や障害を持つ人々など、社会的に不利な立場にある人たちへの配慮を忘れてはなりません。

真の働きやすい社会を実現するためには、賃金だけでなく雇用制度全体、そして私たち一人ひとりの働き方に対する意識を見直す時期にきているのかもしれません。


参考文献:

  • 高橋清隆「『最賃賃金1,500円を全国一律で』、山本太郎氏が骨太方針を批判〜大分」B-NEWS、2019年6月24日
  • 厚生労働省「令和7年度地域別最低賃金改定状況」
  • 第21回新しい資本主義実現会議資料(2025年5月15日)