「看板を降ろした日、心に灯をつけた日」-生きることに折れる第2章

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かつて私は、自分で立ち上げた店をやっていた。

夢を掲げて、人を雇い、看板を掲げて、走っていた。

けれど、ある日、経営は限界を迎えた。

資金も尽き、取引先も離れ、

最後は、私自身が心を閉ざしてしまっていた。

「もうだめだ」

「ここで終わりだ」

そんな言葉を何度も呟いた。

店を畳み、看板を外す日。

手にしたのは“終わり”の実感だった。

でも、ふと気づいた。

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それまで毎日追われていた仕入れや在庫や電話や人間関係が、

なくなったことで、はじめて「心が空白になる時間」が生まれたのだ。

そしてその空白の中に、

「もう一度、何かを始めたい」という気持ちが

ほんのかすかに、芽を出しているのを感じた。

それは以前とは違う、

「こうでなきゃいけない」ではなく、

「こうだったらいいな」という、

小さな希望だった。

かつてのように、人を雇わなくてもいい。

大きな看板もいらない。

借金もしない。

でも、自分にできることを、自分の手で、もう一度やってみたい -。

「倒産」は失敗ではなく、

自分自身との向き合い方の見直しだったのかもしれない。

誰かに評価されることより、

誰かの暮らしの中に、静かに溶け込むような「何か」を届けたい。

看板は降ろした。

けれど、心の奥に灯した火は、前よりも消えにくくなっていた。

人生の中で、折れる瞬間は何度でもある。

でも、折れたからこそ見えるものもある。

倒産とは、失敗ではない。

ひとつの夢の“着地”であり、次の始まりの“滑走路”なのだ。