「天国の日々」4K上映:マジックアワーの光と記憶の中で

監督 テレンス・マリック
出演 リチャード・ギアブルック・アダムスリンダ・マンズサム・シェパード、ロバート・J・ウィルク、スチュアート・マーゴリン
上映時間 94分

5月10日、テレンス・マリック監督の傑作『天国の日々』の4K上映を鑑賞しました。

20世紀初頭、職を失いシカゴの工場を後にした青年ビル(リチャード・ギア)は、妹リンダと恋人のアビー(ブルック・アダムス)を連れて、テキサスの広大な麦畑に辿り着きます。そこで出会った病を患う農場主チャック(サム・シェパード)は、アビーに心を奪われ結婚を申し込むのです。ビルとアビーは兄妹であると偽っていたため、三人の関係は思わぬ方向へと転がり始めます。

レオナルドAI

この物語は、少女リンダが語り部となり、彼女が世界を「天国のように」感じていた時代を回想する形で進んでいきます。まるで『アラバマ物語』のように、語り部が物語を紡ぐという古典的な手法が用いられている点が特徴的です。


この映画を観てからしばらく経ちましたが、日が経つにつれて、まるで昨日のことのように淡い記憶が鮮明に蘇ってきます。これは映画の中のリンダの視点とも重なるものがあります。私自身の小学校や中学校に通っていた頃の思い出は、今では心の奥底に眠る、ほのかな光のような存在です。

当時、プロ野球界では王貞治選手55号ホームランを放ち、その後ハンク・アーロン選手の記録を抜き、756号ホームランを達成するという偉業に日本中が沸き立っていました。

アイドル界では、小泉今日子さんたのきんトリオ、そして松田聖子さんが活躍し、まさに華やかな時代でした。これらの記憶は、ぼんやりとしていますが、振り返ってみると、自分の都合の良いように編集されている部分もあるように感じます。

しかし、正直なところ、もっと幼い頃、3歳や5歳くらいの頃の記憶の方が、より純粋で、天国のような温かさに満ちていたように思います。いつも親切にしてくれた近所のおばさんがいて、妹と一緒に遊びに行っていたこと、何かお菓子をもらったり、いつも一緒にいたことなど、非常に淡い記憶ですが、心の奥底に深く刻まれています。これはまさに映画のタイトル「天国の日々」そのものを体現しているようです。

幼い日の朧げな記憶の中に、父とトラックで移動中、道端に停車して父が近くで作業をしていた時の出来事があります。通りかかった女性に「乗っていきますか?」と声をかけたものの、確か断られたと記憶しています。

それにも関わらず、私はトラックを勝手に発進させてしまったのです。ゆっくりと走り出したものの、足がペダルに届かず、思うように運転ができません。それに気付いた父が慌てて追いかけてきて、トラックを止めようと必死になっていました。

父の必死な姿を見て、私は悪いことをしてしまったという罪悪感と、親の真剣さに驚き泣き出してしまったことを覚えています。映画の中のリンダの視点から語られる記憶の断片と同じように、私の中でもこうした瞬間が光のように残っているのです。


天国の日々』は「マジックアワー」と呼ばれる時間帯に、ほぼ自然光のみで撮影されたという逸話を持つ作品です。日の出や日没の、天候に恵まれても1時間に満たない貴重な時間帯に撮影が行われました。広大な麦畑を借り切り(あるいは買い取り)、1年以上の歳月をかけて撮影。イナゴの大群までをも実際に集めて放つという徹底ぶり。

何よりもフィルムに「光」を捉えることが重要視された作品なのです。

正直に告白すると、私はこの映画を観ている途中で少し眠ってしまいました。確かに単調に感じられる部分があり、抑揚に欠ける展開が続くこともあります。しかし、瞼を開けるたびに息をのむほど美しい映像が広がり、心を揺さぶられるような感動を覚えました。

広大な大地を汽車が駆け抜けていく光景は圧巻でした。日本ではなかなか目にすることのできない風景の美しさを堪能できただけでも、この映画を観た価値があったと思えるほどです。

レオナルドAI

時代や国境を越えても変わらないものがあるという印象も受けました。権力者や経営者が富を蓄える一方で、その恩恵が末端まで行き届かないのは、昔から変わらない構図なのでしょう。現代においては、ほんの少しだけ状況が改善されているのかもしれませんが。

また、人の本質は意外と変わらないものだと改めて感じました。心に抱く思いや、「自分は大した人間ではない」と気づく瞬間は、場所を問わず共通するものなのだと、この映画のセリフからも考えさせられました。

映画の内容は、人間の内に潜む嫉妬、執着、そして時に醜さとも形容できる感情が深く掘り下げられています。内面描写に重きを置いた作品と言えるでしょう。

美しい風景と魅力的な俳優たちの演技があれば、それだけでも素晴らしい映画として成立しうると私は考えます。ですから、割り切って美しい映像を心ゆくまで堪能し、単調な部分で少し休憩してしまうのも、ひとつの鑑賞スタイルとしてありなのではないかと思いました。

レオナルドAI

これはあくまで私個人の意見であり、映画ファンの方々からは批判されるかもしれません。それでも、共感してくださる方がいれば嬉しいです。

とはいえ、結婚式のシーンまではしっかりと見ておりましたし、映画全体の魅力は十分に伝わってきました。

映画監督の犬童一心氏は「最初から最後まで隅々まで愛してやまない映画」と評し、岩井俊二監督も若き日に多大なる影響を受けたと語っています。映画評論家の大森さわこ氏も「ひと針ずつ心を込めて縫い上げたタペストリーのように美しい」と称えています。

映画は光でできている—この言葉通り、光の冒険を成し遂げた金字塔的作品として、「天国の日々」はこれからも多くの映画ファンに愛され続けることでしょう。

皆さんは、この映画をご覧になりましたか?

感想や、もしかしたらあった「眠りへの誘い」について、ぜひコメントで教えてください。